韓国人夫婦の場合

協議離婚(韓国人夫婦の場合)

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 韓国人夫婦が協議離婚をする場合、まずはご夫婦二人一緒に韓国総領事館に赴き、領事による離婚意思等の確認を受けなければなりません(2)。
 その後、関係書類がソウル家庭法院に送付され(3)、未成年の子がいる場合には3か月、そうでない場合には1か月後にソウル家庭法院が離婚意思を確認し、離婚意思確認証明書が作成されます(4)。
 その後、ソウル家庭法院から領事館を通じて離婚意思確認証明書がご夫婦に送られてきますので、それをもってご夫婦二人で領事館において離婚届を提出することとなります(5と6)。
 そして、日本の区役所や入国管理局にも離婚したことを届け出ます(7)。

●裁判上の離婚原因(韓国人夫婦の場合)

 韓国人夫婦の場合、離婚が認められるか否か等の問題については韓国民法が適用され判断されますが、「手続きは法廷地法による」との原則により、離婚の手続きについては日本の手続きが適用されます(夫婦のいずれかが日本人である場合も同様です。)。
 その結果、原則として離婚訴訟を提起する前に日本の家庭裁判所での離婚調停を経ることが必要となります(調停前置主義)。
 離婚調停では、調停委員と呼ばれる方が夫婦双方の話を聞き,離婚の合意や子の親権、養育費の額、面会交渉、財産分与等の離婚の条件についてそれぞれの意見調整を行います。
 そして、調停において離婚が成立すれば、韓国領事館で離婚手続きを行うことになります。他方、調停が成立しない場合には離婚裁判を提起し、離婚を求める必要があります。その場合、離婚が認められるためには離婚原因が必要となります。
 韓国民法840条1号から6号は、裁判上の離婚原因を次のように規定しています。

840条 離婚事由

1号 配偶者に不貞な行為があったとき
2号 配偶者が悪意で他の一方を遺棄したとき
3号 配偶者又はその直系尊属から著しく不当な待遇を受けたとき
4号 自己の直系尊属が配偶者から著しく不当な待遇を受けたとき
5号 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
6号 その他婚姻を継続することが困難な重大な事由があるとき

1号

 この「不貞な行為」について韓国大法院判例は、「不貞な行為というのは、配偶者としての貞操義務に忠実ではない一切の行為を含むいわゆる姦通よりも広い概念であり、不貞な行為であるかどうかは、それぞれの具体的事案によってその程度と状況を参酌して、これを評価すべきである」と判示しています。
 なお、不貞行為について他方の配偶者による事前の同意があった場合には離婚請求権が発生せず、事後に宥恕した場合には離婚請求権が消滅すると規定されています(同法841条前段)。
 また、離婚請求権者である配偶者が不貞行為の事実を知った日から6か月の経過、または不貞行為の事実があつた日から2年の経過によっても離婚請求権は消滅すると規定されていますので注意が必要です(同法841条後段)。もっとも、不貞行為が継続している限りこれを理由とする離婚請求権が消減することはなく、不貞行為が終了した時からこれらの期間が起算されると解されています。

2号

 「遺棄」とは、正当な理由がないのに、同居や扶養等の義務を放棄することを意味し、「悪意」とは、夫婦共同生活ができなくなる事実を容認する積極的な意思を意味します。

3号と4号

 「不当な待遇」とは、身体や精神に対する虐待又は名誉に対する侮辱を意味します。
 大法院判例は、「婚姻関係の持続を強要することが非常に困難であると考えられる程度の暴行や虐待又は侮辱を受けた場合を言うのであって、家庭不和の最中で互いに激した感情でなした暴行及び侮辱的言葉は、それが比較的軽微であるときには、これを民法第840条第3号所定の著しく不当な待遇を受けたときに該当しない。」と判示しています(大判1986年6月24日85ム6)。
 なお、配偶者の直系尊属による著しく不当な待遇だけによって離婚を認めるべきではないとされています。

5号

 生死の不明とは、生存も死亡も証明できない場合を意味します。「3年」の起算点は、最後の消息があった日であり、生死不明の原因は問いません。

6号

 婚姻を継続することが困難な重大な事由とは、一般的に婚姻関係が著しく破綻して、婚姻の本質にふさわしい婚姻共同生活の回復の見込みがない場合です。具体的には、重婚、配偶者の犯罪、肉体的破綻原因(不当な避妊、性病の感染、理由のない性交拒否、性的不能)、倫理的精神的破綻原因(不治の精神病、夫婦間の愛情喪失、性格不一致、数年間継続した事実上の別居、婚姻前不貞による夫婦の葛藤、幼児に対する精神的又は肉体的侮辱あるいは加害、信仰の差異あるいは過度な信仰生活、アルコール中毒、麻薬中毒)、経済的破綻原因(放蕩、家計を顧みない乱脈行為、浪費、不誠実、度の過ぎた贅沢)なども、婚姻を継続することが困難な重大な事由に該当すると解されます。
 なお、婚姻を継続することが困難な重大な事由については、婚姻を継続することが困難な重大な事由に該当する事実を知った日から6か月の経過、または同事実があつた日から2年の経過によって消滅します。ただし、判例は、同号の事由が継続している限り、除斥期間が適用されないと判示しています

●有責配偶者からの離婚請求(韓国人夫婦の場合)

 日本の判例と同様韓国の大法院判例も、離婚原因を作った配偶者(有責配偶者)からの離婚請求に対しては厳しい判断を示してきました。
 もっとも、婚姻を破綻させた責任のある配偶者からの離婚請求について、2015年9月15日韓国大法院は次のとおり判示し、有責配偶者からの離婚請求についても特別の事情が認められる場合には例外的に離婚が認容される旨判示しました。
 「・・・大法院判例においても既に許容されているように、相手方配偶者も婚姻関係を継続する意思がなく、一方の意思による離婚乃至追放離婚のおそれがない場合はもちろん、さらには離婚を請求する配偶者の有責性を喪失させる程度に相手方配偶者及び子女に対する保護と配慮がなされる場合や、年月の経過に基づき婚姻破綻当時現在していた有責配偶者の有責性と相手方配偶者が受けた精神的苦痛が次第に弱化し双方の責任の軽重を厳密に検討することがこれ以上無意味な程度となった場合等のように、婚姻生活の破綻に対し有責性がその離婚請求を排斥しなければならない程度に残ってはいない特別な事情がある場合には、例外的に有責配偶者の離婚請求を許可することができる。このとおり、有責配偶者の離婚請求を例外的に許可することができるかどうかを判断する場合には、有責配偶者の責任の態様、程度、相手方配偶者の婚姻関係意思及び有責配偶者に対する感情、当事者の年齢、婚姻生活の機関と婚姻後の具体的な生活関係、別居期間、夫婦間の別居後に形成された生活関係、婚姻生活の破綻後の様々な事情の変更の有無、離婚が認定される場合の相手方配偶者の精神的、社会的、経済的状態と生活保障の程度、未成年子女の養育、教育、福祉の状況、その他婚姻関係の様々な事情を考慮しなければならない」としました(大法院2015.9.15.宣告2013ム568)。

●子どもの親権と養育権(韓国人夫婦及び韓国人子の場合)

準拠法

 両親及び子いずれもが韓国人の場合、「子の本国法」である韓国法により子の親権等について判断されます(通則法32条)。

親権の内容

 親権とは、子の監護及び教育の権利義務、居所指定権、懲戒権、子の財産に対する管理権、法定代理権、同意権により構成されます。
 なお、親権とは親の一方的な権利ではありません。あくまで子の福祉を実現するために特別に認められた親の権利・義務となります。

親権者の決定方法

 まず、協議離婚の際には父母の協議によって親権者を定めることになります。
 次に、裁判上の離婚の場合には家庭裁判所が職権で親権者を決定します。韓国大法院は「子の養育を含む親権は、父母の権利かつ義務であり、未成年である子の福祉に直接的な影響を及ぼすため、父母が離婚する場合に父母のうちの誰を未成年である子の親権を行使する者及び養育者に指定するかについては、未成年である子の性別と年齢、その者に対する父母の愛情と養育意志の有無はもちろん、養育に必要な経済的能力の有無、父又は母と未成年である子との間の新密度、未成年である子の意志等のすべての要素を総合的に考慮し、未成年である子の成長と福祉に最も資する適合した方向で判断しなければならない」としています。
 なお、韓国民法上夫婦のいずれか一方を親権者と定めなければならないとは規定されていません。したがって、韓国民法上は離婚後も父母が共同親権者であることが認められています。韓国大法院は、離婚後の父母を共同親権者、母を養育者と指定した原審の結論を認めています(大法院2012年4月13日判決2011ム4719)。

●子どもの養育費

準拠法

 養育費を支払う義務に関しては養育費権利者の常居所地の法律によって定めるとされています。つまり、日本に住む韓国人夫婦や子どもの場合、日本の民法が適用されます。

養育費の額

 そして、日本民法879条によれば、養育費の額については「・・・扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所がこれを定める」とされています。
 よって離婚の際に合意により養育費の額が合意できなければ、家庭裁判所が養育費の額を決定することになります。そして、実務上、養育費の額に関しては「養育費の算定表」(「東京・大阪養育費等研究会」による発表。)の使用が定着化しています。
※ もっとも、近日、日本弁護士連合会が新たな算定方式を公表しました。これまで実務において定着してきました上記算定表と日弁連が新たに公表しました算定表を比較しますと、日弁連が新たに公表しました算定表によれば養育費が約1.5倍上がることになります。

●子との面会交渉と子どもの連れ去り

子との面会交渉

 離婚により、子を直接養育しないことになった父母の一方と子は、お互いに面接交渉する権利が認められます。面接交渉権は、離婚後も父又は母との信頼関係を引き続き維持し、子の情緒の安定と円満な人格の発達を目的としています。
 面接交渉権の具体的な行使方法と範囲については、まず、父母の協議により決められ、協議が調わないとき又は協議できないときには、当事者の請求又は職権により、家庭裁判所が定めることになります。
 面接交渉の頻度については、明確な基準はありませんが、子を直接養育しない父母と子との間の信頼関係を維持・発展させるためには、最低1か月に1回の面接交渉が必要と考えられています。ただし、子の福利のために必要なときは、当事者の請求又は職権により、家庭裁判所は面接交渉権を制限し、排除することができます。

子どもの連れ去り

[ 国 内 ]

 相手方配偶者が子どもを連れ去ってしまった場合、子どもを連れ戻すためには家庭裁判所に子の引き渡しを求める審判前の保全処分等を申し立てる必要があります。
 子どもたちの住所が日本にあるのでしたら、日本の家庭裁判所に申し立てを行うことが可能です。もっとも、どの国の法律が適用されるのかという準拠法の問題については、夫婦及び子が全員韓国人でしたら、韓国法の規定に従うことになります。
 そして、韓国法上、父母それぞれには、子どもの養育者、つまり監護権者の指定を求める権利を有するとされています。もっとも、父母のどちらを監護権者と指定するかに関しましては、子の成長と福祉に最も資する方向で判断しなければならないとされています。具体的な判断基準としては、子の性別と年齢、父母の愛情と養育意思、養育に必要な経済的能力の有無、親密度、子の意思等を総合的に考慮し判断されることとなります。
 また、親権者である父母にはこの親権という義務を実現する必要があることから、親権者に子の引き渡しを求める権利があるとされています。
 そして、上記子の監護者指定と子の引き渡しを求める審判前の保全処分の申し立てを日本の家庭裁判所で行うこととなります。そして、この保全処分が認められるための要件としては、①本案の審判申立が認容される蓋然性があること、②保全の必要性を満たす必要があること、が要件となります。

[ 国 外 ]

 日本と韓国がそれぞれハーグ条約(「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」)を批准しました。その結果、日本と韓国では、子を連れ去られた親は、ハーグ条約を規律する法律に基づき、連れさられた子が所在する国の裁判所に子の返還手続きを申し立てることができるようになりました。
 すなわち、子の韓国での所在が判明している場合には、ソウル家庭法院にハーグ条約に基づく返還請求審判等を申し立てることが可能です。そして、ソウル家庭法院は、子を返還すべき者が正当な理由なくその義務を履行しない場合には、一定期間内に返還義務を履行することを命じることになります(韓国における子の所在が不明の場合には、韓国法務部に返還援助申請を行い、子の所在特定作業を行う必要がございます。)。
 それと合わせて、日本の家庭裁判所に別途面会交流の実現や親権者指定等の調停申し立てを行う必要があります(その際、日本に返還された子の所在が不明の場合には、日本外務省に面会援助申請を行ったうえで、所在特定を行う必要がございます。)。

●準拠法

 法の適用に関する通則法(以下「通則法」といいます。)第27条と第25条によると、夫婦の「本国法」が同一であるときはその法律によるとされます。他方、同一の本国法がない場合には夫婦の常居所地法が同一であるときはその法律によるとされ、夫婦の一方が日本に常居所を有している日本人の場合については日本法が適用されるとされています。
 その結果、韓国人夫婦の場合には韓国法によって、日本に住む日本人と韓国人夫婦の場合には日本法によって離婚の問題について判断されます。

お問合せ:06-6316-2755